東京高等裁判所 昭和61年(行ケ)43号 判決
請求の原因一ないし四は、すべて当事者間に争いがない。そして右請求原因事実によれば、原告の本訴請求は理由がある。
よつて、本訴請求を認容する。
〔編註〕 本件における請求の原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、名称を「排気中汚染物を制御する触媒およびその使用方法」(後に「触媒の製造方法」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき一九七五年八月二七日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和五一年八月二五日特許出願をしたところ昭和五九年一月二五日拒絶査定を受けたので、同年五月二八日審判を請求した。特許庁は、これを同年審判第一〇〇〇七号事件として審理した上昭和六〇年九月二〇日「本件審判の請求は成り立たない。」(出訴期間として九〇日を附加)との審決をし、その謄本は同年一一月六日原告代理人に送達された。
二 本願発明の特許請求の範囲
(1) ほぼ化学量論的に調節された酸素の存在下、ガス流中のガス状炭化水素および一酸化炭素を酸化し、同時に窒素酸化物を還元して、それぞれ二酸化炭素、水および窒素を生成させるのに適した触媒の製造方法であつて、該触媒が、
(a) 少くとも二〇m2/gの表面積を有するアルミナ被覆、
(b) 白金単独および白金とロジウム、ルテニウムおよびイリジウム、そして任意にパラジウムの少くとも一種との組合わせ、それらの混合物および合金類からなる群から選ばれる白金族金属成分、
(c) 鉄、コバルト、ニツケル、レニウムおよびマンガンの酸化物およびそれらの混合物からなる群から選ばれ、しかも前記白金族金属成分に対して少くとも二対一の重量比で存在する卑金属酸化物成分、および
(d) 前記の被覆、白金族金属成分および卑金属酸化物成分の複合物を支持する支持体から成り、該触媒を、
(e) 前記白金族金属成分またはそれらの前駆体、および前記卑金属酸化物成分またはそれらの前駆体と、アルミナ粉末とを混合して、混合粉末を形成し、この混合粉末粒子の水性分散液と前記支持体とを接触させることによつて支持体上に前記混合粉末を沈着させ、次いで、前記支持体上に前記の白金族金属成分、卑金属酸化物成分およびアルミナ被覆の複合物を与えるのに十分な高さの温度で前記支持体上の混合粉末を加熱することによつて製造することを特徴とする前記触媒の製造方法。
(2) 前記、工程(e)の混合処理を、前記アルミナ粉末に、水性溶液状の前記卑金属の一種または二種以上の化合物、白金化合物および任意にロジウム、ルテニウム・イリジウムおよびパラジウムの一種または二種以上の化合物を含浸することによつて行ない。それによつてアルミナ粉末粒子が少くとも一種の白金族金属化合物および少くとも一種の卑金属化合物で飽和されている前記混合粉末を形成する、特許請求の範囲第一項記載の方法。
(3) 前記白金族金属成分が白金とロジウム、任意にパラジウムであり、卑金属酸化物成分が酸化ニツケルである、特許請求の範囲第一項記載の方法。
(4) 前記卑金属酸化物成分が生成触媒の一~二〇重量%の範囲で存在し、前記白金族金属成分が生成触媒の〇・〇五~〇・八重量%の範囲にあるように含浸物の性質を調節する、特許請求の範囲第一項または第二項記載の方法。
(5) 前記アルミナ被覆中に一種または二種以上の希土類酸化物を含ませて安定化させる、特許請求の範囲第一項記載の方法。
(6) 前記希土類酸化物がセリアである、特許請求の範囲第五項記載の方法。
(7) 前記触媒の製造を、アルミナ粉末をそれぞれ別個に可溶性白金族金属化合物の水性溶液と卑金属化合物の水性溶液とに接触させることによつて得たアルミナ粉末の混合によつて行なう、特許請求の範囲第二項記載の方法。
三 審決の理由
別紙のとおり(省略)。
四 審決の取消事由
審決は、以下主張のとおり本願発明の要旨の認定を誤り、その結果本願発明が引用例1及び引用例2の記載から当業者が容易に発明することができたとの誤つた判断に至つたものであるから、違法として取消されるべきである。
1 審決は、本願発明の特許請求の範囲については、これを前記請求の原因二項に記載のとおり認定したが、本願発明の要旨を審判請求人(原告)が提出した昭和六〇年七月二三日付審判請求理由補充書(その二)に特許請求の範囲の補正案として記載した次のとおりのものであると認定した。
「触媒活性のあるアルミナ上に白金族金属の一種またはそれ以上を分散させてなる触媒に、内燃機関から生じたガスを通すことにより、該ガス内に含まれる炭化水素、一酸化炭素、酸化窒素を同時に減ずる方法において、重量基準による平均空気対燃料比を空気対燃料の化学量論比の約±〇・一の範囲内に維持すること、および該触媒が白金族金属の少なくとも二倍の重量の酸化ニツケルを上記アルミナ上に分散されて含むことを特徴とする、上記方法。」
2 しかしながら、右補正案は原告が本願発明の特許請求の範囲を、このように補正する用意があることを述べたに過ぎないものであつて、これによつて特許請求の範囲が補正されたものでないことは明らかであり、また、右補正案に記載された事項と前記特許請求の範囲とを対比すれば、両者が技術的内容を異にすることは明らかである。
3 元来出願発明について、これを引用例等と対比してその進歩性を判断するに当つては、出願発明の要旨は、明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて認定されなければならない。
しかるに審決は、前述のとおり本願発明の要旨を明細書の特許請求の範囲とは技術的内容を全く異にする審判請求人(原告)の補正案のとおりに認定し、これを前提として引用例1及び引用例2と対比した上本願発明の進歩性を否定したものである。
4 よつて、審決は本願発明の要旨の認定を誤つており、この誤りがひいてその後の対比判断及び審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである。